釈千手の日記帳

私が生まれ育った町ではなぜか卓球大会が盛んだった。ある年の大会で、貧しい私たちの町会が、金持ちが住むとなり町の子どもチームに勝ち優勝したことがある。お祝いに寿司屋に連れて行ってもらった。キュウリが入ったカッパ巻きとカンピョウ巻きだけだったが私たちにとってはごちそうだった。するとその店にとなり町の大人と子どもたちが入って来て豪華な握り寿司を注文した。四年生の子が「ボクたちもあれが食べたい」と言うと、連れてきてくれたおじさんが自分の財布の中を見て「お前たちが優勝したのにゴメンナ」と言った。私たちはおじさんに気を遣って目の前の巻き寿司を褒めて頬張った。帰ったら相手の子どもたちを殴ろうと思っていたのが、その寿司屋で殴ってしまい、大騒ぎ。優勝祝賀会は後味の悪いものとなってしまった。

「ずっと人間描かれ」

水上泰財著

武蔵野美術大学出版局