「パパに頼んで、その人殺してもらおうか?」2011年07月31日 10時10分08秒

恵比寿で「したごごろ」というお芝居を観てきました。
こんなことを書くと関係者には怒られてしまいますが、普段仕事で手話を使っている私は、逆にプライベートでは手話とは少し距離を置きたく、手話劇や聴覚障がい者を扱った映画はできるだけ観ないようにしているのですが(ゴメンナサイ!)、今回は、劇団の友人に勧められて久しぶりの観劇となりました。

物語はあるバーを舞台に展開される男女のお話。劇団の枠を超えた8人の個性派俳優が演じます。私は恥ずかしながら、アトムさん(日本ろう者劇団)と、最近NHKの番組で取材させていただいたマッキーさん(デフパペットひとみ座)しか知りませんでした。大橋弘枝さんは、あとでパンフレットを見て「あっ、出ていたんだ!」と驚いたぐらいでした。(失礼シマシタ!)

劇場に着くと、手話監修の五十嵐由美子さんから「谷さん、頑張って読み取ってくださいね」と言われました。さらに、終わった時に、「内容わかりましたか?」と聞かれました。あのー、私を誰だと思っているのですか?(笑)バルサミコだの、小悪魔風だの難解で、速い手話でしたが100%読み取れましたよ。ただ、彼女が私にそう尋ねると言うことは、それだけ手話が早く、健聴者からは「読み取れなかった」という声が多く寄せられているということなのでしょうか?

さてさて、お芝居の方に話を戻しましょう。カウンターの手前の手話での会話と、カウンターの中にいるバーテンダーの表情やらからみやらが、リズム良く、そしてその両方が自然に目に入ってくるのは自分でも不思議な感覚でした。
どの役者も素晴らしかったですが、中でもやっぱり今野真智子さんが一番光っていましたかねぇ。まぁ、ときどき「バーテンダーは普通、そこまで客の会話に首を挟まないだろう」という突っ込みを入れそうになりましたが。
一見すると遊び人、または悪い人に見えても実は・・・という展開は、歌舞伎の世界ではよくあることですが、内側に秘めた人格をそれぞれの俳優が見事に演じていたと感じました。

この作品は米内山陽子さん(トリコ劇場)が書き2~3月に一般公演したものを、聴覚障がい者用に書き換えたものだそうです。とにかくセリフが洗練されていて楽しいのです。いくつも印象に残っていますが、特に「あいつ嫌な奴なの?パパに頼んで殺してもらおうか?」というセリフには声を出して笑ってしまいました。公演後、陽子さんにそのことを話したら、一般版では「パパに頼んで戸籍から抹消してもらおうか?」だったんですよ、笑っていました。米内山陽子さんのお芝居を観るのは恐らく10年ぶり位だと思いますが、改めて彼女の才能に惚れ直しました。

演出は金田一央紀さん(Hauptbahnhof)です。たぶんいろいろとご苦労されたと思いますが、仕上がりとしてはとても良かったと思います。
ただ、ラストシーンはあまり長くなくても、二人が良いムードになったところで、突然またひとりの客がドタバタと飛び込んできた、さて次は一体何が起きるか?・・・ぐらいで暗転(幕)でもテンポ良く終われたような気がします。あっ、あくまでも素人の意見です!スミマセン。
また、このシーンだけ手話無しでした。健聴者の笑いを一番取っていたところですが、見終えた後、聞こえない人から「どんなことをいっていたの?」と聞かれてしまいました。たぶん、あの展開で楽しめたのは唯一、手話がわかる健聴者だけだったのではないでしょうか?
これも後でパンフレットを読んで知ったのですが、毎日日替わりのゲストがあるとのこと。たぶんそこがラストシーンだったのでしょうが、この回だけに限定していえば、かなりとってつけた感は否めないと思いました。

また、「恋という字は下に心がある」というセリフがありました。これだけで終わるとあやうく筆談ホステスになってしまうところでしたが(笑)、「恋の字の心は大きいけれど周りがスカスカ、でも愛の字の心は小さいけれどギュッと濃縮されている」というセリフがありました。せっかくのセリフなので、あの辺りをていねいに手話で表現できたらさらに良くなるのではないかと感じました。


0731駅前バー


それにしてもあっという間の1時間10分でした。楽しく、上質なオトナの時間を過ごさせていただきました。出演者の皆さん、スタッフの皆さん、そしてプロデュースの廣川麻子さん、お疲れさま、そしてありがとうございました。

ところで四国の遍路旅、今日は9109歩、7km歩き、79番天皇寺を打ち終えました。