二段目とお軽 ― 2016年11月13日 21時34分51秒
国立劇場の開場50周年を記念して、10月から12月までの3ヶ月間、歌舞伎の仮名手本忠臣蔵全十一段を上演しています。
今日はその第二部(五段目から七段目)を見てきました。
今日は歌舞伎の話、忠臣蔵についての無駄に長い話なので興味がない方とはここでお別れしたいと思います。おやすみなさ~い(笑)!
さて今日の話の前に、先月の二段目の話から。
私が全十一段の中で一番好きなのは九段目です。二段目というのはその九段目の伏線にも当たる部分になります。
本蔵という人が「これから大星家の力弥くんが来るので応対はお前が」と妻の戸無瀬さんに応対を頼みました。しかし、戸無瀬さんは具合が悪いと仮病を使い、娘の小浪ちゃんにその仕事を任せます。実は二人は婚約中なので、せっかく力弥くんが来るなら小浪ちゃんと会わせてあげたいという親心(実際には戸無瀬さんと小浪ちゃんは血は繋がっていませんが)からです。
ところでここは本蔵の家だとばかり思っていたら、実は主である桃井さまのお屋敷だったのですね。この二段目は、後半に松の枝を切るシーンがあるので「松切りの場」と呼ばれています。

ところでご存じのように忠臣蔵は敵討ちの物語ですから登場人物は基本的には男性です。しかし、それだけではつまらないので、敵討ちとは違う恋の話や親子などの話を平行して進めます。そこで登場するのがお軽ちゃんです。ちなみに先月の三段目では高麗蔵さん、今月の六段目では菊之助さん、七段目では雀右衛門さんがお軽を演じています。
本来忠臣蔵の道行(舞踊を中心とした旅のシーン)は八段目だったそうです。ただ、九段目はカットされることが多いですし、やっぱり小浪ちゃんよりお軽ちゃんの方が注目度が高いからでしょうね、現在忠臣蔵の道行と言えば、五段目の前のお軽ちゃんと勘平くんの旅路を指すのが一般的になっているようです。
さて、ここからは今日観たお芝居についての感想です。
<道行>
伴内が二人を追いかけてきます。家来を8人連れていて、全員桜の枝を手に持っています。もちろんこれは鑑賞用ではなく武器なのです。
伴内が歌うように語るシーンは楽しく印象的です。
<五段目鉄砲渡しの場>
勘平が真っ暗な山道で旅人に、火種を借して欲しいと声をかけました。旅人の方は「コイツは山賊ではないか」と警戒します。そこで勘平は自分の鉄炮を相手に差し出します。つまり私はあなたに悪いことはしないということを示します。そこから「鉄砲渡しの場」と呼ばれるようになりました。
<同二つ玉の場>
鉄砲の火種をもらった勘平は狩りを続けます。イノシシを見つけそれに向かって2発撃ちました。命中したと思ったのですが、実は人に当たってしまいました。真っ暗な中、手探りでそのことを確認する様子は迫力がありますね。ところでこの場は緊迫するところなのですが、花道を駆けてくるイノシシは何だか安っぽくユーモラスな感じがします。
<六段目勘平切腹>
郷右衛門のセリフから「渇しても盗泉の水は喰らわずとは義者のいましめ、舅を殺し取ったる金、亡君御尊霊の御用に立とうか。生得汝が不忠不義の性根にて整えたる金子と推察あって、さし戻されたる由良之助殿の御眼力、弥五郎殿恐れ入ったの、あっぱれあっぱれ」まぁ、こんなことを言われたら腹も切りたくなりますねぇ。
さてさてこの後は賑やかな七段目一力茶屋となりますが、今月は友人ともう一度看に行きますのでこれについてはまたその日に書きたいと思います。
この目に焼き付けてきました ― 2016年10月23日 22時33分34秒
今日は、仕事仲間と歌舞伎を見てきました。

歌舞伎でやる物語はどれも長いものです。のんびりしていた江戸時代ならともかく、現在では全ての段を上演することは時間的にも興行的にも不可能です。そこで、面白くて人気がある段、物語を理解する上で大切な段だけが残っいくのです。するとそうでない段はいつの間にか消えてしまいます。
ところが今回、国立劇場は開場50周年を記念して3カ月かけて、仮名手本忠臣蔵の全段を上演することになりました。これはとってもすごいことなんですよ。

今日は全段のうち一段目(大序)から四段目までが上演されました。その中でも二段目が上演されるのは大変珍しいそうです。確か40年振りぐらいだったはず。私は中学生の時に初めて歌舞伎(その時も忠臣蔵でした)を見て以来、いろいろな作品を見てきましたが、私にとってもこれが初めての二段目。そして恐らく最後の二段目になることでしょう。しっかりとその芝居をこの目に焼き付けてきました。

さて、終演後のお楽しみはやっぱりお食事ですね。赤坂のうどん屋さんで秋田のお酒と肴をいただきました。
あぶりがっこチーズ(まるでミルフィーユ)、銀杏、稲庭うどん・・・。どれも美味でした。写真はサンマの塩焼き。食べやすいようにと春さんが骨を外し、身をほぐしてくださいました。脂がほどよくのっていました。ごちそうさま!
皆さん、来月もまたよろしくお願いいたします。
四か国語で歌舞伎を ― 2016年06月17日 22時08分50秒
今日は国立劇場に歌舞伎を見に行きました。
今夜のプログラムはちょっと変わっています。
音声ガイドからは、
日本語
英語
中国語
韓国語
の四か国語の説明が流れてきて、チャンネルを切り替えることで好きな言語を選べます。

とても素晴らしい試みですよね。
私の大好きな歌舞伎、日本文化の良さをもっともっと多くの人たちに知って欲しいなぁと感じました。
演者、解説者、国立劇場のスタッフの皆さん、今日は素晴らしい舞台をありがとうございました。
おもだかや~ ― 2015年11月21日 22時04分04秒
今日は友人のMと新橋演舞場で「ワンピース歌舞伎」を観てきました。

いゃー、楽しかったです。(あれを歌舞伎と言って良いのかどうかはわかりませんが)とにかく素晴らしく大満足の舞台でした。ひとつだけ残念なことと言えば、この公演は今月25日に終わってしまうので、もう一度観ることができないことぐらいでしょうか。
春猿さんのナミ、笑也さんのロビン、隼人くんのサンジ。どれもピッタリの配役でした。特に私が感動したのは巳之助さんのボン・クレーです。メイクもそうなのですがあの目の動きが本人(?)そのものでした。
このスーパー歌舞伎はもちろんワンピースの原作を読んでいない人でも十分楽しめます。でも物語を知っているとより細かいところまで楽めると思いました。たとえば海軍の青キジが相手に倒されるとき、お腹を押さえて「何じゃこりゃ~」と叫ぶシーン。これは青キジのモデルが松田優作さんなので、死に方も「太陽に吠えろ」のジーパン刑事を元にしているという訳なんですね~。

猿之助さんは次回どんな仕掛けで私たちを楽しませてくれるのでしょうか?今からとても楽しみですが、その前にまずは楽日まで4日間の公演が怪我なく無事に終わりますように。
出演者の皆さん、スタッフの皆さん、今日はとっても素晴らしい舞台を本当にありがとうございました!
ヒグラシの声の音程は? ― 2015年10月28日 22時19分50秒
今夜はNHK古典芸能鑑賞会へ行ってきました。
これは年に一度NHKホールで行われるものですが、箏曲・尺八・狂言・歌舞伎と日本の伝統芸能がひとつの舞台で楽しめる魅力的な舞台なんですよ。

「日本の四季」箏曲・尺八
ひぐらしという曲の最後にカナカナと鳴き声が!まるで本当のセミの声を録音して流しているような錯覚を起こしました。私には絶対音感がないのでどの音がわかりませんが、きっとひぐらしの声の高さの音を琴糸で忠実に表現しているのでしょうね。
「朝比奈」狂言
近頃人間がみんな善人になってしまい、地獄に来る人がめっきり減った。そのために地獄からえんま様がこの世に訪れ、辻に立って人を地獄へ連れて行こうとする、その設定が狂言らしいですね。朝比奈と言えば鎌倉切り通しを思い出します。
「身替り座禅」歌舞伎
自分の身代わりを立てて、夜中にこっそり家を抜け出そうとする・・・落語にもこんな話しがありましたね。登場の所作や、太郎冠者の存在など狂言の影響を強く受けている作品ですね。菊五郎(右京)と左団次(玉の井)の息の合った芸はさすがです。
今日の舞台は12月にNHKで放送される予定です。今からとても楽しみです。
暑い夏を乗り切るために必要なものは? ― 2015年07月20日 09時10分37秒
暑い夏の必需品といえば・・・
扇子
鰻
怪談
鰻
怪談
この3つでしょう。そんな訳で、日本橋に怪談を聴きに行きましたよ。

初日「小幡小平次」神田松之丞
「幽霊が恐くってコハダが食えるか!」江戸っ子はそう言いました。菊池寛の「籐十郎の恋」は私の好きな作品。芸のために女を食いものにしたひどい奴という評価もできますが、七三郎というライバルの出現、近松という原作者からの挑戦に押しつぶされそうになった人気歌舞伎役者。「捨て身の大芝居」を打ったのではないでしょうか?この物語、お梶が絹行灯の火を消すシーンが印象的です。
「牡丹灯籠 お札はがし」神田春陽
「牡丹灯籠 お札はがし」神田春陽
この話は何となく知っていたのですが、お露のお墓、新幡随院があった谷中三崎村とは、今の「千駄木」。お露が毎晩通った萩原の屋敷があった清水谷とは、今の「根津」。つまりこの怪談は私の地元が舞台だったのですね。全く知りませんでした!それにしても、下女を引き連れて毎晩やってくる美人の幽霊・・・一度は会ってみたい気もします。
中日「幽霊退治」神田松之丞
不破数右衛門のお話。ということは、これも忠臣蔵物語の一部。「冬は義士、夏はお化けで・・・」と言いますが、夏でも義士で飯を食っていますねぇ(笑)。浅野長矩への忠義を示した数右衛門は、討ち入り後に切腹。享年34才でした。戒名は「刀勧祖剣信士」、生涯を物語っていますね。それにしても松之丞さ~ん、客席24度、舞台21度ってちょっと寒すぎませんか(笑)?
「四谷怪談 お岩様誕生」神田春陽
殺された金貸しの伊勢屋十助(じゅうすけ)。その女房(この女も実は幽霊)が、家にやってきて「お宅の押し入れの中に夫がいるので迎えにきました」と言い、生首を持って帰るところがゾ~!そして卒倒したおつなが女児を産み落とすところでまだゾ~!お岩さんは生まれたときから不幸な運命を背負っていたのですね、合掌。逃げた二人が、その後千葉の東金で再会する、そちらの話もまた気になるところです。
楽日「真景累ヶ淵 宗悦殺し」神田松之丞
「小夜衣草子」神田春陽
「小夜衣草子」神田春陽
さすがにものの見方が深いですねぇ! ― 2015年01月18日 21時00分10秒
寿初春大歌舞伎
吉右衛門さんの「番町皿屋敷」
皿屋敷と言ってもお化けは出てきませんよ。自分の恋人を、「家宝の皿を割ったからではなく」、「自分の愛情を疑われ試されたこと」に腹を立て切り捨ててしまう、私にはそのロジックが理解できません。ところが、同行のMが「この話しは純愛だね。吉右衛門さんだからできた役。もしこれが、すねにキズがある歌舞伎役者だったら、そんなこともあるだろうと許してしまうだろうから」と。さすがに我が友!歌舞伎を観る研ぎ澄まさせた着眼点にはいつも学ばせていただいています。
玉三郎さんの「女暫」
絢爛豪華な荒事。暫というお芝居の女番パロディーですね。最後に幕が閉まった後の玉三郎さんが「あ~疲れた。私はこれから楽屋へ引っ込むのだけど、誰かこの刀持ってくれないかねぇ?」と言うと、そこに登場したのは舞台番役の吉右衛門さんです。ふたりのやりとりに場内は大爆笑でした。
ひとり女形でとっても美しい人がいました。下手前列で赤い着物を着ていた役者さん。彼は誰だったのでしょうか?ご存じの方はぜひ教えてください。

猿之助さんの「黒塚」
猿之助さんは、狐とか鬼女などの役が上手ですね。
よく落語の世界ではお化けの話しは縁起が良い(大化けする=自分がさらに大きく変化できる)ということでお正月に好まれると言いますが、これもそんな意味があるのでしょうかね?
内容は古典歌舞伎ですが、照明が近代劇のようで斬新でした。以前国立劇場では観たことがあるのですが、歌舞伎座でこのような照明が使われるのは珍しいと思います。
いずれもお正月らしく、見応えのある夜の部でしたよ。
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